「三位一体改革」で、歳入減になりそうな県内の大半の市町村は、経費削減や事業抑制などで歳出の削減に取り組んでいる。地方交付税、臨時財政対策債の発行額が多い自治体、貯金にあたる基金が底をついた自治体ほど影響があり、職員の給与や手当を切り下げ、福祉サービスの水準を下げる事態も起きている。1年ほど前、2004年4月6日の、三位一体改革が愛知県内の各市町村に及ぼす影響について書いた、詳細な記事である。
三位一体改革。真の地方自治だなんだと言われているが、要するに770兆円(国民一人当たり約600万円)とも言われている国の借金を少しでも減らすために、国から地方への国庫支出金(いわゆる補助金)や地方交付税を減らし、適当な税源も地方に移譲した上、「もう国は地方の面倒見てあげられないから、自分で稼いでメシ食っていってくれ」という話しである。
ヒモ付きのお金が少なくなるので、各官庁の官僚や族議員は必死に抵抗して骨抜きにしようとしているから、実際この三位一体改革が成功するかどうかは不透明だ。しかし、どっちにしろ国の借金は天文学的数字で膨らみ続けるから、地方への補助金も地方交付税も減らそうとすることは間違いない。しかし、今後どれくらい減らされるのかは、その中央政局の成り行き次第なので不透明だ。
平成の大合併の狙いも同じだ。「合併特例債」。建設事業専用で、しかも「7割を返さなくていいだけの借金」という仕掛け付きのニンジンで釣ることで、弱小自治体の大リストラを進め、トータルで国から地方へ行くカネを大幅に削減することが狙いだ。しかも今年3月で申し込み締め切りで急がせている。ここの説明によると、大体4〜5兆円、市町村合併によって節約できるらしい。
とにかく霞ヶ関は国の借金をちょっとでも減らすために、三位一体改革も市町村合併もガンガン前倒しに行っていて、市町村財政は破綻寸前のところが多数だ。今後どんどんこの傾向はひどくなるだろうし、今までの口約束なんかあっという間に反故にされるだろう。
市町村合併で自治体財政がどうなるのかは、この自治労連の資料が的確に説明していると思う。
自治労連 市町村合併問題「自治体財政がどうなるか検討しよう」
【ポイント1】
財政シミュレーションで、「合併する・しない」場合の 「地方交付税の変化」、「合併特例債の負担」の比較検討を
【ポイント2】
地方交付税が3〜4割も削減される? 誤解や誤りを正確・冷静にとらえよう
【ポイント3】
地方交付税は、合併した方が、大幅に「削減」となります
【ポイント4】
「合併特例債が使える」から有利というが? …3割を超える地元負担で、さらなる財政悪化の危険性
#この指摘からみると、合併評議会や「合併を進める会」が配っている「なぜ今合併なのか」という資料はツッコミどころ満載なのだが・・・たった10年しかシミュレーションしてないとか・・・合併するしないでの地方交付税の減額幅とか・・・合併特例債で地方に残る借金の返済プランとか・・・交付税が無くなる15年後以降の返済シミュレーションとか・・・
#読み比べて頂いて、参考にして頂きたい・・・
さて、表記の朝日新聞の記事「三位一体改革 自治体、節約に苦心」の後半で、愛知県内の各自治体への三位一体改革の影響と、特に市を除いた町村への影響について書かれている。非常に重要な内容でわかりやすいので、是非通して読んで欲しい。
04年度「三位一体改革」による
県内市町村の歳入への影響見込み額(単位万円、%)
影響見込み額 影響率
南知多町 ▲22252 3.2
美浜町 ▲6927 1.0
武豊町 ▲4547 0.4
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町村 財政難に拍車
歳入削減は、補助金廃止・削減(約169億円)、地方交付税改革(約289億円)の計約458億円。税源移譲などで約131億円の歳入増が見込めるが、差し引き約326億円の歳入減と見込んだ。
この額は全市町村の今年度一般会計予算案総額の1・3%にあたる。自治体の規模別にみると、市では1・1%、町村では2・5%と大きくなる。町村は人口、企業とも少なく、地方交付税へ依存している。地方交付税などの削減分を埋める新たな財源はなく、影響が出やすい。
美浜町の北隣に武豊町(たけとよちょう)という町がある。競馬の騎手の武豊(たけゆたか)と同じ字だが、実際交流があるそうだ。
この武豊町の財政状況を見てみると、人口は美浜町の約1.5倍だが、平成15年度決算の歳入額は武豊町 141億4646万円、美浜町 70億6681万円と2倍以上だ。
中部電力の火力発電所やファイザー製薬、日本油脂、旭硝子、日本化学工業などの大きな工場などを抱えて、税収が安定している武豊町の決算データの内容は、地方自治体としては非常に堅調だ。
平成15年度の決算では、歳入 141億4646万円、歳出 132億5665万円と約9億円の単年度黒字である。町税の率は実に48.4%。平成16年度予算でも、自主財源は前年度より 3.4%減って厳しいものの、それでも 69% もある。もちろん国からの地方交付税の支援が無い不交付団体であり(愛知県には不交付団体が25もある)、記事の上記のデータにあるように、三位一体改革での影響を他よりは受けにくいのは当然だ。平成16年度予算の歳出を見ても、武豊町の方が教育費、土木費の予算に占める割合が高く、用途も手堅いものが目立つ。
一方、美浜町の「広報みはま」や「合併を進める会」が配布している資料によると、美浜町の予算で地方交付税の占める割合は平成15年度で10億2700万円で約35%と非常に依存度が高い。
#平成15年度決算では10億2734万円で歳入の15%、平成16年度予算(広報みはま 平成16年4月1日号 p.10〜11)では 9億2000万円で 13%(予算総額 約71億円)とある。
#この合併推進用の資料の 35% という数字は一体どういう計算になってるのか?
#2004年の広報みはまの目次を全部見たが、予算は載っていても決算がどこにも見つからないので、実際に平成15年度の歳入がどれだけどういう内訳であったのか全然わからない・・・どなたか公開されている情報の在処を知ってたら教えて下さい。
#(2/26 追記)
#平成15年の決算データ、やっと発見。広報みはま 平成16年12月1日号 p.5。
#目次が「お知らせします 町の家計簿」じゃわからないよ・・・
地方交付税とは、いわば「努力しないでも親からもらえるお小遣い」である。三位一体改革でヒモ付け性が強くなってきているとは言え、とにかく努力しなくてももらえる。それに頼った財政運営をこれまでやってきて、借金を74億も82億も重ねてきたのは、行政の怠慢と言うほか無い。
それを三位一体改革で、いきなり「明日からお小遣い減らすから、頑張って自分で稼いでね」と言われても、稼ぐ手段を今まで作ってこれなかったのだからどうしようもない。
今回の美浜町・南知多町の合併問題では、合併特例債のアメ玉や行政の合理化・リストラ・経費節減で、税収不足・地方交付税不足を補って、なんとか明日あさってを食いつなごう、という場当たり的で後ろ向きの話しばかり聞こえてくる。
しかし、一番の根本的な問題は、どうやって自主財源の税収、つまり町民の収入を増やし、自分で食っていけるように出来るかどうかなのだ。それが具体的に全然語られていないのだ。
合併協議委員会の「市町村建設計画(合併まちづくり計画)案」で語られている「活力と創造性あふれる産業の振興 - 産業」(p.33〜)の内容も、これまで美浜町なり南知多町が採ってきた施策のそのままか焼き直しばかりで、基本的には何も変わってないようだ。今までダメだったのに、こんな事でこの先稼いでいくことが出来るのか?
また、イベント・箱モノ系の施策が多いが、それで本当に町民の収入を増やすことが出来るのか。財政基盤の強化・借金返済を最優先に考えた方がいいのではないのか?
そこが変わらない限り、合併しようが合併しまいが、町の先行きは見えている。
合併特例債など、重病人に打つ麻薬にすぎない。ちょっとは痛みを和らげ現実逃避できるかも知れないが、その後は地獄が待っている。病気を治すことなど出来ないのだ。
日々経営努力をされている経営者の皆さん、特に観光業などのサービス産業に携わるみなさんはわかっていると思う。どうすればお客さんを取り戻せるのかを。どうすれば地元にお金を落としてくれるのかを。
三位一体改革・市町村合併が進めば進むほど、大都市への集中投資は顕著になり、小さい市町は切り捨てられ、強い中央政府と疲弊した地方自治体という構図が鮮明になる。より広域の合併を考えるのは、長い目で見れば、まあ理にかなってるとは思う。
この地域でも、一度はそれを考えている。半田市が旗を振ったと聞いているが、2002〜2003年に知多南部2市4町(半田市・常滑市・阿久比町・南知多町・美浜町・武豊町)の広域合併が議論され、破談になった。そのときに作られた、この6市町の行財政の比較データ(2003年4月)がある。この中の「財政力指数」を見ても
武豊町 1.06と断然差があり、合併がまとまらなかったのもわかるような気がする。もっとも、なにか政治的な理由があったのかも知れないが。
美浜町 0.64
南知多町 0.61
今後広域合併を考えるにしても、一度破談になっているから再びヨリを戻すのは時間がかかると思うし、税収不足や(今回の合併が決まった場合は)合併特例債を使ってしまった場合の借金やらがあるから、おいそれとは進まないだろう。
ましてや「まず合併して南セントレア市になりますんで、将来、広域合併してセントレア市になりましょう」なんて言っても、鼻で笑われるだけではないのか?
日曜日の住民投票を前にして、合併論議がヒートアップしているが、とにかく「どうしたら稼げるようになるか」を、基本に立ち戻って真剣に考えて欲しい。住民投票でどのような結論が出ても、賛成した人も反対した人もすぐに協力して、何をすべきかなのか考え、実行して欲しい。
たまたま、昨晩、テレビ東京のワールドビジネスサテライトで、平成の大合併が各地で引き起こしている騒動を特集していたが、その後半で、北海道ニセコ町の事例を引き合いに出していた。
わずか4600人の小さな町で、110億円の借金を抱えているが、若い町長の指揮の下、合併など見向きもせずに、行政のコストダウンの取り組みはもちろん、とにかく稼ぐために観光協会の株式会社化まで行っている。ツアー商品の企画は勿論、ニセコブランド商品もここが物販し、1期目から単年度黒字、2期目も黒字の予定で1億3千万円を売り上げる予定だそうだ。
独立採算化できる事業は、町と町民が出資して次々に株式会社化している。稼いでいるし、配当まである。ファンクラブのような寄付事業までやっていて、使い道は全て公開している。
町役場も超質素だが、職員も「公務員意識」を捨て去り、コスト削減のため、委託業務は減らして、職員が雪おろしでもなんでもやっている。5時になったら即帰るような感じの職員はいないそうだ。
なにより、「町役場の職員も住民もみんな仲間」という雰囲気がとても伝わってきた。
釘を刺しておくが、視察に行っても、何もしなかったら同じだからね。
・わたしたちのまちの憲法―ニセコ町の挑戦
とにかく、この三位一体改革のなか、今までと同じ事をやっていたら、悲惨な結末を迎えることだけは間違いないと思う。
河和口の海岸から見える、武豊町の発電所・工場群
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2月27日 合併住民投票・新市名アンケートにむけて